主訴は冷え性、便秘、不妊ということである。
27歳の結婚後、体重増加。また腰から下の強い冷えを感じ始める。29歳から妊娠を希望し、、30歳、32歳と合計3回妊娠し流産。このとき抗リン脂質抗体による不育を指摘され、次の妊娠ではバッファリン服用での妊娠継続をと計画されるものの、32歳の流産後は、人工授精を四回、IVF-ETを3回おこなうなど、高度移植医療の力を借りても、妊娠すらできなくなってしまっている。
もともと便通が悪く、ストレスによりより悪化。そして疲労が加わると便通がより悪化し発熱までしてしまうという状況である。この便通の状況から考えると、脾気は肝気の影響を受けやすく、また腎気が落ちると、上焦で肺気が発熱を伴うほど鬱滞させることにより下向きのベクトルを作り、なんとか便通がついている状況であったと思われる。つまり、この方の便通は、腎気、肺気、肝気、脾気と全身の生命力を総動員することにより、やっと便通がつくような状況であり、便通と全身状態は密接にリンクし、なんとか便を出し、均衡を保っていたのだと考えられる。
この状況の上に、20代後半からは腰から下の強い冷えと、結婚してから体重が増加という要素が加わる。この腰から下の冷えというのは、なんらかの原因で腎の陽気に強く影響があったのではないかと考えられる。それに湿痰の増加があり全身の生命力の巡りは一段と悪化するという状況である。
こういった状況であるも、32歳までは妊娠が成立していた。
そして33歳の3回目の流産をきっかけに、妊娠すら成立しないという状況になる。これは流産、不育という強いストレスが、腎気に強い影響を与えたため、また流産そのものもでも腎気を落としてしまったためではないかと思われる。
現時点から体表観察で眺めると、大椎風門の冷えゆるみ、太淵の発汗などが認められ風邪の内陥があるのではないかと思われる。
腰から下の冷えという強い腎の陽気不足は、脾の陽気不足を引き起こし中脘部での冷えとなり、体重増加によって生じた湿痰による脾募とあいまって中脘部の冷えを伴った大腹の大きな腫れとなった。
もともとの強い肝鬱は風邪の内陥によってより強くなり、横逆し、中脘部の冷えと湿痰を伴い動き難いものとなっていた塊をつき、心下をつきあげたため、ご本人に『心臓が悪いかと思われる』というような状況を作り出したと思われる。舌尖部での瘀斑、紅点も強い気の上逆を示している。
のちにおこった流産と、強いストレスが、この方の肝気の上逆をより直接的に強くしたこと。そして流産そのものの腎気への負担があったことで、もともとの強い便秘や強い冷えがあっても、それなりの臓腑のバランスがとれ、妊娠は成立していた状況を、現時点では肝鬱の強さ、腎気の弱さから妊娠すら成立しないという状況にさせてしまったのではないかと思われる。
弁証:
1)風邪の内陥
2)肝鬱気滞
3)腎陽虚論治:
1)疏風散寒
2)疏肝理気
3)温補腎陽
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